シンポジウムSECTION

SECTION「SECTION51-52」


2012年2月28日(火)東京デザインセンター

今回のシンポジュウムは変革の時代の中、最前線を走っているであろうアパレル業界に焦点をあて、この業界において企業の店舗開発者とインテリアデザイナーはどのようなスタンスを取り合っているのかを探るものであった。冒頭のコピーは基調講演をお願いした繊研新聞社の中村部長のこの業界に対する熱い思いを表したものであるが、今後のストアデザインに対しても深く示唆を与える言葉となった。

今まで我々が考えてきた幸せがこのまま延長してゆくわけではない

中村 1970年代から75年ぐらいまでは大衆消費、作れば売れるという時代がありました。この時、全部握っていたのは何かというと、マスメディア。とりわけ新聞、ラジオというものが重要でした。次に現れたのが『集衆、分衆の時代』。いわゆるブランドの時代です。感性の時代。デザインが重要になっていました。これを担ったのは何かと言うと、この当時もマスメディアでした。しかし、新聞ではなくて、今度は変わって出てきたのが映像であるテレビ、そして、ファッション誌でありました。それがさらに進んで日本人が携帯モバイルを使ってメールを活用し始めたのが1995年、一般的に広がってきたのが2002年ぐらいですけど、2000年ぐらいから出てきた新しい消費というのは、メールを使って、ブログを使って、物を自分で感じて買うというやり方です。これを「私だけ商品」と言います。自分ひとりじゃなくて、だれかが言ったから、「これ、どう思う?」という形で物が売れて行くというような形です。そのときに支えているのはネットです。パーソナルメディア、one to one。これによって消費が行われていくというようなことが起きてきました。その結果、ファッションというものが、1つの動きとしてはコモディティ化してきています。逆にコモディティ化の裏返しとして、自分がクラフト、職人というような感覚も今、新しく出てきています。同時に2010年以降出てきている消費の中で考えなきゃいけないキーワードをエコ・ファーストとか、ローカル・ファーストと言います。物を買って消費することは今までは楽しみだったけれど、物をたくさん持つことは罪悪なんじゃないか、地球環境を破壊するんじゃないかという、今までの消費概念とは違うものがついに出てきたということです。そうすると、何でもかんでも買って、生活を東京ライフなんていうふうに言ってきたけれど、そうじゃなくて、これはあなたにとって必要なものですかということを考えて消費しなきゃいけない、生き方の質とか人生のありかたと消費を結びつけて考えるようなことに変わってきているということなんです。



さらに、消費のつながりというようなことが今言われています。非常に重要なのは、共感とか共鳴、つながりをつくれないと物が売れていかない時代になって行くということで、膨大な情報量の中からいかに選んでもらえるかは、それこそ人との社会関係、つながりでしかないということです。



アパレル企業が次の方向性としてやろうとしていることは幾つかあります。1つは、海外へ出て行くということ。2つ目は、新しい情報時代あるいはつながり時代に向けたスタンダードをつくろう、「ニューノーマル」という言い方をアメリカも含めてしています。それから3つ目、ライフスタイル。生き方に合ったライフスタイルをどうやって提案できるのかということをもう1回考える。4つ目、今までの衣料とか、ものづくりじゃなくて、もっと環境問題とか、全然違う取り組みをやっていこうじゃないかというようなこと。例えば今、家電メーカーが家を売る時代になっています。家電メーカーが何で家を売るかというと、家そのものが家電になっているからという形で売るんです。例えば、はだしで玄関を2、3歩歩くと、そのときの脈拍や体温を病院に全部蓄積できるというようなことを今やろうとしています。同じように繊維というとらえ方じゃなくて、違うもので表現を育てていって新しい時代を作っていくということをアパレル業界でも考えている。

 

重要なのは今までのような、物としての差別化、あるいはほかの店との関係の差別化じゃなくて、これからは社会の細分化ということです。1つの違ったものをいかに長く、サステナブルにやり続けるかということが今、ファッションブランドでも、あるいは店づくりのところでもこれから問われてくる。しかも、決定的なのは違いを浮き立たせること。そのことなしに、同質化したものを作り続けても、行き着くところは決まってしまう。経営で言えば、CSVということになっています。これは何かといえばCreative Shared Valueのことです。クリエイティブな、創造的な価値をみんなでシェアする。そういう価値をどの企業がつくれるかというようなことが新しい目標になってきています。これは私の考察ですけれど、どこに人が集まるのかと考えていったときに、経済で物が物々交換されたときは市場だし、エネルギーが広がってきたときは生産地だった。続いて、物が動き始めたときは、消費地。つまり、店、ショッピングセンターなど。そして、金融、情報が動き始めたときはどこかというと、情報空間。ネットの中に人が集まり始めたということです。それがさらにこれから進んで行くと、情報で事を起こすようなことが生まれてくる。あるいはさらに進んで行くと、これは予測ですけど、今後大切と なってくるのは時間なんです。大量の情報の中から短時間でどうやって選ぶか、24時間の中でどういうふうに生きていくのか、あるいはその空間をどうやって、だれと一緒にすごしていけるのかというようなことが今後重要になってくる。



「コミュニティ」というものの集まり方が変わってくる、中心は仲間だし、人、SNSが利用されることでどんどん変わってくる。そのバーチャルとリアルの世界の中でいかに幸せをつくるか。今まで我々が考えてきた幸せがこのまま延長してゆくわけではない。幸せを再構築しこれからの時代をどうやって育てて行くのか。この店に来たら本当に楽しいと思えるような空間や時間そして仲間づくり、これが今後アパレル、店づくり、ブランドづくりに非常に重要になってくると思います。



「ディズニーランドはお金を取るけど、おれの店はタダだ。」

三根 ロンハーマンは65歳なんです。話をするうちにどんどんどんどん彼にひかれていったんですけど、彼が言った印象的なことは、「ディズニーランドはお金を取るけど、おれの店はタダだ」と言うんですよ。それだけ自分の店が楽しいんだということを彼はそのときに言いたかったんだろうと思うんですけど、そういうことを僕としても36とか37でしたから、世の中、新しいもの、何もないみたいな時代のときに、そのとき63歳のロンさんの「まだまだおもしろいこと、やるぞ。世の中、おもしろいこと、あるぞ」というパワーと意気込みには感激しましたね。で、彼と組んでやろうということで、サザビーリーグと組んで契約をし、千駄ヶ谷に1店舗お店をオープンしています。

お店へこられた方もいらっしゃると思うんですが、先ほどもeコマースのお話が散々出ていましたけど、僕は全く逆で、とにかく買い物をする経験自体をしたいということなんです。なので、このお店に来てこの洋服を買った、この物を買ったじゃなくて、そこで買ったという思い出とか、そういった経験自体を売って行く。なおかつその服を着ることによって、お客さんが勇気がわいたり、きれいになったり、内面にまで影響して、そこからまたにじみ出て、お客様をもっと幸せにしたいというのが僕の考え方です。

なので、居心地がいいとかそんなことは当たり前ですけど、要は五感で感じるもの、においだったりとか、音だったり、そんなことすべてに関してその五感で感じられるようなお店を作ってほしい。なおかつお願いしたいことは、ずっと昔からここにあったような店にしてくれということ。新しくオープンしました、ピカピカですじゃなくて、「あれ、これ、あった?」というようなお店にしたい。

何だかいい生活しているなとか、何かこういうライフスタイルしてみたいなというところが表現できたらいい

吉田 今、デザインの感覚が変わってきているのは間違いないと思います。何かこう、ビックリするような形とか、見たこともないものを創出するという、そういう感じでもなくて、ロンハーマンのときに本当に心がけたことなんですけど、時間をデザインしたいなと思って、このときは一緒に訪れたLAでの体験ですとか、そういったことを日本でやったらどうなるのかというのが一番大事なことの1つでしたね。 昔からあったようで、でも、何だかおもしろそうだなって。
きるとか、僕はやっぱりそこで空間で語りかけたかったですね。いいお店に来たな、何かもう1回来てみたいなと思うようなお店にしたいなと思って。ですから、例えば、表層的にはものすごくくだけたり、わざと閉じていたりする部分があったりするというのはそういうことなんです。来てよかったなと思っていただけるようなお店のためにも、やっぱり素朴な、ある意味、そっけない部分も多いです。ロンハーマンは、ただ服だけじゃない部分もたくさんあって、カフェも併設していますし、雑貨を売るようなゾーンもあるんですけど、空気をここで楽しめるような、当然LAに行ったことがある人も、ないお客様もいらっしゃると思います、でも、何だかいい生活しているなとか、何かこういうライフスタイルしてみたいなというところが表現できたらいいなと思っていて、必ずしも商売とあまり関係のない部分が突然あったりするんです。僕もそうですけど、1日、ロンハーマンに来ていただいて、今日、楽しかったね、みたいなことになればいいかなという思いですね。

2000年代は、クラフトの時代が来てるんじゃないか

中村 さっき、鳥塚さんが80年代はデザイン、90年代はやっぱりカルチャーの時代、それで、2000年代は、クラフトの時代が来てるんじゃないかというようなことを楽屋でお話しされていましたけど、その辺をちょっと話していただけますか。 鳥塚 80年代も90年代もやっぱり個々の1人の作家さんだったり、1つの建物であるとか、1人に対してフューチャーするという部分で作家さんありきで、その作家さんがつくられた建築の中に自分たちはオフィス企業として入居するであるとか、どなたか有名な方がつくられたアパレルのショップの中に自分たちの商品が悪くても、その商材を入れて並べるという時代が20年ぐらい続いてきたと思うんですが、2000年に雑誌『Begin』などでコラボレーションという部分がスタートしまして、イタリアの商材と日本のデザイナーが一緒に作りましたパンツですみたいな、そういうようなコラボという部分がとてもたくさん繰り広げられたんですけども、そのブームというのはいまだにこの12年になっても消えておりません。コラボレーション、もともとあった伝統の文化と、それから新しい発想のデザイナーであったり、バイヤーであったり、そういう方たちの3人だったり4人称というもので、また新しいものを作っていくという時代がこれからもますます盛んになっていくんじゃないかなと。
やはり、そのキーワードとしては、クラフト。すごくソーシャルな部分は発掘していきますけれども、ハンドメイドの部分であるとか、伝統工芸という部分に関してはしっかり押さえながら、それをソーシャルなスピードで世に送り出していくということかなというふうに思っています。もともとの根源にある気持ちよさみたいなものはどんなお店とか店舗づくりに対してもそれは共通言語だと思う。

勝田 もともとの根源にある気持ちよさみたいなものはどんなお店とか店舗づくりに対してもそれは共通言語だと思うので、例えば、飲食店というのが一番わかりやすいと思うんですけど、来ていただいているお客様にいつもとはちょっと違う疑似体験をしてもらうみたいなところが、さっき三根さんも言われていますけれど、物だけを売るということじゃなくて、体感とか体験ということを我々はある意味売っている。そういうことから考えると、その根源のところでは変わらないと思っています。そこから先は多分、目的になってくると思います。

結局、目的は何かということで、例えば、三根さんのロンハーマンは、ロスのそういういい匂いを持ってこようという目的があるので、その匂いを日本の皆さんに伝えていきたいというところが目的だと思うんです。物だけではないプラスアルファの付加価値をつけて、お店や、来ていただいた方に体験、体感をしてもらうということはビームスさんももちろんそうで、カテゴリーがより分かれていると思っているんですね。カテゴリーごとの目的を達成するために、さっきの静岡のお話じゃないですけれど、自分たちがまず静岡に行って、どういう街なのか、どういう人が住んでいるのかということをまず体験してみて、その人たちが一番求めるものは何かというところを目的に沿って、分析していくという、ある意味、店舗数もかなり多いというお話もあったので、より分析をしていって、目的を達成するためにお店づくりをしているという感じなのかなというふうに思っています。僕もクライアントの方々の中で、やっぱり目的を一番明確に持たれているクライアントの方とか、人とお話をしていくうえで具体的な目的があるほうが、空間をよりつくりやすいというふうには思っているので、そういうことだと思います。